復元型ビオトープ「いのちの森」
「いのちの森」は、平安遷都1200年を記念して1996年に開設された梅小路公園(京都市下京区)中央部に設けられた面積0.6haの、京都で初めての復元型ビオトープであり、またまったく非自然的な立地条件(JR梅小路貨物駅跡地)からスタートした他に例のない事例である。
計画に際して、1993年に京都ビオトープ研究会が発足し、いのちの森の「目標」「可能性」「意義」「方法」などについて自由な検討がなされた。そこで得られた結論は以下である。
「いのちの森」自然復元の「目標」
- 21世紀の京都のシンボルとなる、多様な"生命"を育む多様性の豊かな"緑"の空間を形成すること。
- "緑"や"自然""環境"への市民への関心を高める「きっかけ」を提供すること。
- 適切な情報提供によって"自然"への理解や知識を深める場とすること。
を基本コンセプトとし、都市化以前の京都の風景、具体的には、市内の鎮守の森に見られるようなニレ科樹種を主とする河畔林、山麓のシイ林、山麓の湿地、扇状地の湧水湿地、氾濫原の低湿地などが目標として設定された。
いのちの森創出の「意義」
- 都市の非自然的な「大海」に自然的な「島嶼」を建設して、生物多様性の保全に役立てる。
- 都市建設以前の生物多様性を都市内に再現することによって、都市の自然環境へのインパクトを軽減する。
- 生態系のモニタリングに基づく情報を提供することで、市民の自然教育に役立てる。
「いのちの森」の「可能性」
哺乳類、鳥類、昆虫、植物について、類例、保全生態学的研究事例などをもとにして1ha弱の空間での生存可能性について検討をおこなった。島嶼生態学で論議されるように、生物相の豊富さは自然的な山や川からの距離と、それに対するいのちの森の面積が大きく関係する。半径1km圏内に東寺、西本願寺などの緑地があるが、鴨川までの距離は約2km、桂川、東山山麓までの距離は約3kmである。
結論は、植物、昆虫、鳥はかなりの種数の増加が期待できるが、哺乳類はこのような孤立した小面積緑地で個体群を維持するのは困難である。
「いのちの森」自然復元の手法
- 土壌環境
計画地全体がJR貨物駅跡地であり、同時に埋蔵文化財包蔵地でもあることから、搬入盛土(結果的には大部分が京都市地下鉄東西線延伸工事の際の建設残度が利用された)を主体とする基盤整備を行い、植栽樹種の構成にあわせて3段階での深さの面的な土壌改良を行う(土壌改良材としてはイソライト、バーク堆肥、真珠岩パーライトが使用された)。あとは導入した樹木からの落葉によって、あるいは木自体が枯れて倒木となって森林土壌を形成させる(こうなるまでは100年ほどかかると予測されている)。
- 水環境
水深や底質、護岸構造、流速等の異なる「池」や流れを設けるとともに、循環水と地下水の使い分けなどにより、多様な水環境の形成を図る(面積約21〜120uの、大小あわせて6つの池が造られた。水深は30〜70pといずれもそれほど深くない。「いのちの泉」の底には洗った砂利が使用された。それ以外の池の底には滋賀県栗東の田圃の土がひかれている)。
- 林内環境
落葉広葉樹を基本に、構成種・密度の異なる林分や草地を設け、植物相の多様化を図る。また、早期に"樹林"の形態を整え、環境形成の促進を図るため、当初から大木の導入を試みる。しかしそのあとは人為的な干渉は極力控え、自然の回復、植生遷移の進行に任せ、導入した樹木から散布された種子、あるいは周囲から風や鳥によって運ばれた種子が自然に発芽して成長し、後継樹となることによって次世代の森を形成し、ゆっくりと森が成熟してゆくのを図る。
- 生物生息環境
昆虫等の小動物の生息環境の形成を目的として多孔質の「装置」を林内や水辺に配置し、それらの出現・定着を促す。また林内への立入は通常禁止して、入場者の観察は「樹冠回廊(歩行デッキ)」からに限定し、これによって普段人の目に触れず、小動物の"聖域"ともなるエリアを確保する。(動物の導入は基本的には行わず、自然に侵入、定着するのを待つ)
以上を参考にコンサルタント(株式会社空間創研)が設計を行い(設計期間平成7年2月〜7月)、施工は、ちきりや・植彌加藤造園・村岸・加藤共同体が行った(施工期間平成7年10月〜平成8年3月)。
京都ビオトープ研究会